東京地方裁判所 平成10年(ワ)4722号 判決 1998年8月25日
原告
新日本証券株式会社
右代表者代表取締役
川口忠志
右訴訟代理人弁護士
高芝利仁
右訴訟復代理人弁護士
亀屋佳世乃
被告
株式会社オービット
右代表者代表取締役
鈴木均
右訴訟代理人弁護士
堀士忠男
外一名
主文
一 原告と被告との間で、原告が別紙株券目録記載の株券に係る株式を所有していることを確認する。
二 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
一 請求
主文と同旨
二 事案の概要
1 別紙株券目録記載の株券に係る株式(以下「本件株式」という。)は被告の所有であったところ、平成九年八月二九日午後八時三五分から同月三〇日午前一〇時一〇分までの間に、被告事務室内の金庫から何者かによって盗取された。被告は、同日、右盗難の事実を警察署へ届け出るとともに、平成九年九月二五日、本件株券につき除権判決を得るため、公示催告の申立て(東京簡易裁判所平成九年(へ)第二四一三号)をした(乙一ないし三)。
2 本件は、原告が、平成九年九月二九日、顧客の林一郎(以下「林」という。)から本件株式の売付を委託されて東京証券取引所でこれを執行したところ、ユニバーサル証券株式会社(以下「ユニバーサル証券」という。)が本件株式を買い受けて善意取得し、その後事故株券であることが判明したため、同年一〇月二二日、原告が本件株式を買い戻したことによりその所有権を取得した(甲一)として、被告に対し本件株式の所有権確認を求めたものである。
3 本件の争点は、ユニバーサル証券の善意取得の成否であるが、この点に関する原告の主張は、次のとおりである。
(一) 林(浦和市<以下地番省略>)は、昭和六二年一一月一一日、原告八重州支店(平成四年五月一五日中央支店に併合)に取引口座を開設し、爾来、本件株式の売付を委託した平成九年九月二九日までの間、一〇年近くにわたり取引を行ってきた既存顧客であり、従来証券取引のトラブルはなかった(甲七)。
(二) 本件株式の売付を委託された原告中央支店では、委託者の権利者性に疑問を生じさせるような特段の事情がなかったことから、平成二年七月から実施されている「事故株券照会サービス」を利用して、事故株券でないことの確認手続を取った(甲五)上で、本件株券の入庫処理を行い、平成九年九月二九日、問屋として本件株式を東京証券取引所で売り付けたところ、単価五四〇〇円受渡代金五二七万九一四五円で約定が成立(甲六)し、ユニバーサル証券が本件株式を買い受けた。
原告とユニバーサル証券との間の決済は株券等の保管及び振替に関する法律二七条の規定により行われ、これによりユニバーサル証券は本件株式を善意取得した(甲二ないし四、六)。
三 争点に対する判断
証拠(甲二ないし七)及び弁論の全趣旨によれば、前記原告の主張を認めることができる。
乙一ないし三によれば、本件株式は盗難品であり、被告は、盗難発覚後所要の手続をとったことが認められるから、林の本件株券の入手経路、林の売付委託申込みに対する原告の審査のあり方が問われる事案であるが、林が一〇年来の原告の顧客であり右売付委託まで証券取引のトラブルがなかったことに照らすと、原告の審査が「事故株券照会サービス」の利用のみであったとしても、委託者の権利者性に疑問を生じさせるような特段の事情について主張立証のない本件においては、未だ不十分であったとまではいえない。
四 よって、原告の請求は理由があるから認容する。
(裁判官髙柳輝雄)
別紙株券目録<省略>